目次
・社員一人ひとりの能力は高いのに、チームとしてまとまっている感じがしない。
・社員の教育には力を入れているはずなのに、現場であまり効果が出ているように思えない。
私は人材育成トレーナーとして多くの企業様の研修をやらさせていただいているのですが、上記のようなお悩みを抱えている企業様が多いことを感じております。近年は組織開発に注目が集まっているのですが、そうした企業様のニーズと合致しているのかもしれません。
本コラムを見つけていただいた皆さまも、組織開発を通してこうした組織の課題を解決したいのではないかと存じます。
とはいうものの、組織開発の意味そのものがわかりにくいですし、世の中に溢れている情報は、アカデミック的な要素が多くてなかなか現場の実践に落としづらいのが現状です。
そこで本コラムでは、組織開発について基礎的なところから詳しくお伝えしていきます。組織開発について一から調べたい方、組織開発の導入のしかたを学びたい方には、ぜひご一読いただきたいと思っております。
組織開発とは何か?
日本では、組織に属する個々人の能力を育成により引き出すような人材の教育が行われてきました。筆者が行っていることも、まさにその個々人に着目した育成のプロセス、つまり人材開発にあたります。
これに対し組織開発とは、個人間の関係性や相互作用などに着目して組織の中で起こっている問題を客観的に捉え直し、解決に向けたアクションをとるための一連の活動のことをいいます。
具体的に組織開発は、組織の変革を担う人材(チェンジ・エージェントと呼ばれる)が、対象となる部署・チームのなかに入り込み、メンバーの対話を促したり気づきを与えることによって、組織に変化をもたらしたりします。
組織開発が求められる理由
なぜ人材開発だけではダメなのか?
人材開発が「個々人が対象」であるのに対し、組織開発の対象は人と人の「関係性」や「相互作用」とお伝えしましたが、この組織開発の必要性は何となく理解できるものの、概念がやや分かりづらいと思います。
誰が・どんなスキルを身につけて・それが職場でどんな風に活用されるのか?組織開発と違い人材開発は、方向性を定めやすいし、効果があるかどうかも明白に感じられます。
そこで、人材開発ではなく組織開発が必要な理由についてもう少し掘り下げて説明していきましょう。
具体例として、筆者の知人がとある大企業様の幹部職候補に向けて人材開発コンサルティングを実施されたときのエピソードをあげたいと思います。(実際のエピソードに若干の脚色を加えています)
知人のコンサルタントは、幹部候補の方たちを大きな会議室に集め、集合研修を行いました。
研修のテーマは、「自社の今後の事業展開についてのアイデア出し」です。数人のグループに分かれてディスカッションを行いました。話し合いの最後には、出したアイデアについてプレゼンを行うという流れです。
前提として申し上げますが、集められた幹部候補たちは、誰もがとても優秀で能力に長けています。しかし、会社の体質が保守的であり、新しいことにチャレンジする文化が薄れていたのです。
誰も意見を出さずに膠着した状態が続きました。お互いが牽制しあっていて、積極的に意見を出そうとしません。知人のコンサルタントによるファシリテーションを交え、お昼ぐらいになってようやく場の雰囲気が和みました。幹部候補の方たちも、段々と自分の意見を言うようになって来ました。
ところが、です。
場の熱量が高まり、いい流れだと思ったその矢先、会議室に社長が入ってきたのです。場の雰囲気が一斉に凍りつきました。つい数秒前まで積極的な意見出しが行われていたにもかかわらず、みんなが社長の目を気にしだして黙ってしまったのです。
その後の発表では、ワクワク感のある斬新なアイデアではなく、社長が喜びそうな差し障りのないアイデアしか出てきませんでした___。
さて、いかがでしょうか?
幹部候補の方はどの方も優秀です。しかし、一人ひとりの能力が高くても、組織として最大限のパフォーマンスを発揮できていると言えるでしょうか?
個々人の能力を高めたとしても、組織がパフォーマンスを発揮できるとは限らないのです。上記の事例から、そのようなことを読み取っていただけるのではと思います。
この事例の場合、どうやら優秀な幹部候補たちが社長に忖度しているところに歪みがありそうですね。この歪みがあるからこそ、彼らも本来もっている能力を会社の中で十分に発揮することができないようです。
社長と幹部候補社員
上司と部下
社員同士
組織の中の人材の間にある関係性と相互作用の歪みに着目し、その歪みを正すことで組織のパフォーマンスを最大限に発揮できる状態をつくること。それが組織開発です。
組織開発の考え方が最初に根付いたのは、多様性に溢れていて個人主義の強いアメリカです。人種も肌の色も価値観も違うまったく多様な人材が同じ組織に集まっている状態。組織として成果を上げるよりも、個人が頑張って成果を出すことが求められる社会。自分が成果を出すために、他の人間を出し抜くことさえ厭わない、そのような世界です。
そのような中で、こうした多様な人材の関係性に着目し、いかに組織としてのパフォーマンスを高めていけるか。それを解決するための手法として、組織開発が発達していったのです。
なぜいま日本で組織開発が求められているのか?
今の日本でも、まさに組織開発が求められているのではないでしょうか?
これまでの日本の組織は、大卒を一括採用、終身雇用というスタイルをとってきました。会社の中で昇進するのはほとんどが男性です。多様性、ダイバーシティとはまったく間反対の社会でした。
いまはどうでしょうか?外国人を雇用することもあれば女性を昇進させるケースも増えていますよね。正社員だけではなく非正規雇用の社員も増えています。働き方改革により、リモートワークをメインで行う人もいるし、副業も当たり前になりつつあります。
こうした時代背景を見ても、多様な人材が入り混じる日本の組織において、組織開発のような手法が求められているのが分かります。
組織開発とチームビルディングの違い
組織開発と似たような概念にチームビルディングがあります。筆者も企業様向けにチームビルディング研修の講師をやらせていただいたことがございます。
組織開発とチームビルディングの何が違うのか?
決定的に違うこととしては、チームビルディングは「共通の目的・目標を達成するにあたりチームとしての関係を深め相乗効果により人数以上のパフォーマンスを発揮させる」のをスタートにするのに対し、組織開発は、目的・目標だけでなく「そもそもの問題を浮き彫りにする」ことからスタートします。
問題を「解決」するのはもちろんですが、潜在的な問題を「発見」するためにあるのも組織開発です。
ものすごく粗い解釈ですが、ひとまずはこのような形で捉えてください。
これだけでは漠然としていて分かりづらいので、最先端の技術を持った頭痛改善クリニックの全国店舗展開を例に挙げて、具体的にイメージしていきましょう。
たとえば、「20◯◯年までに、全国に●●数の店舗展開をし、△△△△の売り上げを実現しよう、そのためには・・・」というビジョンと目標をチームで共有します。それを実現するために組織に属するメンバー全員の結束力を高めて相乗効果を高めパフォーマンスを発揮していこう。そのために活用されるのがチームビルディングです。
では、一方の組織開発はどうでしょうか。
「20◯◯年までに、全国に●●数の店舗展開をし、△△△△の売り上げを実現しよう」このビジョンを立ててプロジェクトがスタートしました。
しかし、どうもおかしい。トップの掲げたビジョンにメンバーが賛同しているように感じられない。結束力を高めるような施作はされたがどうも実現に向けた士気も感じられない。顔色を伺って本音を発言できないような雰囲気が漂っている・・・。そもそもメンバー間の健全度も低いように感じる。
さぁどうしよう?そもそも何が問題なんだ?
このように、問題解決以前にあるそもそもの問題提起からスタートするのが組織開発となります。
既知の問題解決に向けて突っ走るチームビルディングに比べると、非常にカオスなところからスタートします。
豪華客船タイタニック号の悲劇がなぜ起こったかご存知ですか?アメリカへの処女航海の希望を夢みて設計から始まったタイタニック号。そのプロセスにおいて、「明らかに救命ボート数が足りないのでは・・・」「豪華に見せることが優先された設計では危険度が高くなるのでは・・・」関係者が密かに思っていたことを発言できないという組織のメンバーの関係性があの悲劇を生み出したのです。
こんなことにならないためにも組織開発では、ファシリテーター役を立てて、メンバー同士の対話を促進しながら、この漠然とした問題に対して向き合うことになります。
これまでの経験を振り返り
メンバー同士が本音で話し合い
対話を繰り返しながら問題を浮き彫りにし
問題解決に向けたプランを練り
実際にアクションしてみる
こうしたことを繰り返しながら、組織としてパフォーマンスを発揮できる状態にするのが、組織開発に繋がります。
上記の流れを促進するためのファシリテーターが入り込む必要がありますがが、最終的にはファシリテーターなしでも組織が自走できる体制にするのが望ましいです。
目の前に起きている問題はあくまでも事象に過ぎません。その事象の奥にある本質的な問題にアプローチしていくのが組織開発となります。ですから、誰かが答えを用意して待っていてくれるわけではありません。ファシリテーターの介入、メンバー同士の対話を通して、その問題に気づいていかなければならないのです。
組織開発のアプローチ手法を3つご紹介
アメリカで生まれた組織開発は、様々なアプローチをとりながら変化し、日本に輸入されてきました。「組織開発」というネーミングではないものの、組織開発と同様のアプローチが取られている手法が日本にもいくつかございます。
いくつか代表例となるアプローチ手法をご紹介したいと思います。どの手法も優れたものですので、皆さまが興味をお持ちいただいたものを取り入れていただければ良いですし、本格的に実践するならばトレーニングを受けてみても良いでしょう。
組織開発がどのように生まれ、どんな変遷を辿って日本にやってきたか?
詳しいいきさつは、中原淳氏と中村和彦氏による共著『組織開発の探究〜理論に学び、実践に活かす〜』に詳しくまとめられています。組織開発をさらに詳しく学びたい方は読むことをおすすめします。
①アクションラーニング
アクションラーニングは、組織が抱えている問題解決のスキルを高めるよりも、起きている問題について学習するスキルを高めるための組織開発手法です。
アクションラーニングは、イギリスのケンブリッジ大学の教授であるレグ・レバンスがそのプロトタイプを開発した後、多くの研修者や実践者の試行錯誤を重ねながら改良を繰り返し、いまや世界中で実践されている手法となります。
複雑で変化の激しい環境の中で、問題を解決する前に、「そもそも何が問題なのかが分からない」という状態が当たり前になっています。
そこで必要になってくるのが、そもそもの問題を定義する能力です。いかに経験から学び、問題を導き出すか。ファシリテーターの力を借りながら、自分たちで問題を浮き彫りにすることが大事なのです。
アクションラーニングでは、このように問題を発見し、次なるアクションを打つまでのプロセスを体得していきます。
画像:アクションラーニングのアプローチ方法(日本アクションラーニング協会より)
そうして学ぶ力を繰り返しつけることが、自走する組織をつくることにつながっていきます。
国際アクションラーニング機構(WIAL)と提携関係にある日本アクションラーニング協会が、日本でアクションラーニングの普及を行っています。
*ちなみにこのコラムの筆者である私はアクションラーニングの認定コーチになるべく協会でトレーニング中です。
②学習する組織
学習する組織は、ピーター・センゲ氏によって確立された組織開発の方法です。システム思考をベースにしており、企業が自分たちの利益のために行動するのではなく、企業を含むシステム全体を捉えることで本質的な課題にアプローチするために生み出されたものです。
組織に属するメンバーが、メンバー自身の志を確立し(自己マスタリー)、対話(ダイアログ)を通してこれまでしがみついてきた思い込み(メンタルモデル)に気づき、システムへのアプローチを組織で探っていくというモデルです。
学習する組織の詳細については、筆者のコラム学習する組織とは?本の要約と事例で徹底解説をご覧いただければ幸いです。
学習する組織の日本における研修は、有限会社チェンジ・エージェント様が担っています。
➂クエスチョンサークル
問い(クエスチョン)の力で組織の成長を促す組織開発の少数精鋭プロフェッショナル集団です。
私たちは何か問題に直面すると、つい表面的な「答え」や「解決策」を探そうとしてしまいます。しかし、表面的な問題を解決しても、その問題を作り出している本質的な問題を解決しなければ、問題は違う形で繰り返し発生します。
腰痛で苦しんでいる人が、表面的なマッサージを繰り返していても一向に改善しないのと同じです。腰痛という問題を起こしている潜在的な要因を発見するすることが腰痛改善のために必要なことと似ています。
問いのスキームを使い、組織開発を促していくクエスチョンサークルのアプローチは絶好のチームビルディングにも繋がると評判です。
組織開発とコーチング
組織開発は、部署やチーム単位で行うコーチングに近い概念で行われたりもします。皆さまは、コーチングを受けたことはありませんか?コーチングを受けるには何か目的があるはずです。その目的は人それぞれかと思います。
では、なぜコーチングを受けるのでしょうか。おそらく、自分ひとりでは解決できない問題があるからではないでしょうか。だからこそ、自分のことを客観的に見てくれるコーチが必要なのです。
そのため、コーチに求められることは、解決のためのアドバイスを与えるのではなく、クライアントに対して気づきを促すことです。答えを教えたとしても、クライアントにとって何の利益にもなりません。自ら考え腹落ちする解決策を、クライアントに気づかせられるかどうかが、コーチに求められる役割です。
組織の変革を担うチェンジ・エージェントは、まさに組織にとってのコーチ役になります。組織が解決しなければならない課題は、当事者たちにとっては見えにくいものです。当事者からしたら、いまの状況を問題とすら思っていないのかもしれません。
変革を担う人材が組織のメンバーに働きかけることで、いかにメンバーに課題に気づいてもらい、課題解決を自分ごととして実践してもらうかが大切です。
人材育成トレーナー佐藤政樹が組織開発に注目する理由
学習する組織
組織文化
組織開発
これまで筆者のコラムの中で、組織開発に関連する記事をいくつか挙げさせていただきました。人材育成トレーナーとして、主に企業で活躍する方々のスキル向上や意識変革に取り組んできた筆者が、組織開発に注目する理由についてお話ししたいと思います。
一言で申し上げるならば、組織開発を学ぶことが人材育成の効果に密接に関わってくるからです。
私が目指しているのは、夢を持って努力を積み重ね、イキイキと働きながら世の中に貢献する人材を増やすことです。
その中で気づいたこととして人材の意識変革と組織の変革は両輪をなしているということです。企業として高いパフォーマンスを発揮するためには、企業の中で働く人材の成長は不可欠です。人材育成は、そのために欠かせない要素です。
一方で、一人ひとりの人材が企業の中でパフォーマンスを発揮するためには、組織の中における人と人との関わりが円滑である必要があります。
アメリカで靴の通販を手がけるザッポスのCEOトニー・シェイは、組織文化をとても大切にしています。いくら個々の人材が優秀だったとしても、組織文化を破壊するようなファクターが一つでもあったならば、数珠つなぎのように組織の崩壊につながりかねません。
筆者が人材育成トレーナーとしてのミッションを成し遂げるためには、個々の人材の開発に目を向けるだけでなく、組織開発にも目を向けなければならないと思ったのです。
筆者の研修を受講したから成長するのではなく、学んだことをベースに組織の中で人と関わり合うことで成長するのです。
当たり前のことかもしれませんが、人間は一人では生きてはいけません。人と人が関わり合うことによって、内発的な気づきを得ることもでき、それが個人の成長と企業の成長を後押しするのです。逆にその関わり合いに歪みがあると、せっかく才能のある人材の芽を潰すことにもなりかねません。
組織における人と人との関わり合いを促進し、素晴らしい組織文化を築いていく。それがひいては、個々の人材が持つ素晴らしい才能を発揮することにつながり、イキイキと働く環境づくりになると考えています。
今後も組織開発にまつわるコラムを引き続き発信していきたいと思います。以前、ファシリテーション研修についてのコラムを書かせていただきましたが、ファシリテーションは組織の変革を担うチェンジエージェントにとって必須スキルと考えます。興味のある方は、ぜひお読みになってください。
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