目次
■浅利先生から学んだこと
2018年7月13日、劇団四季創立記念日を翌日に控えたその日に浅利慶太先生がお亡くなりになりました。
浅利先生が生前よく言われていた思い出の言葉です。
努力を続ける力
訓練を乗り越える意志
演劇を愛し続ける資質
全てが才能
ウサギとカメの童話だと、カメの方にこそ才能が埋もれている__。
この記事を書いている私はまさに不器用でノロマなカメでした。でもそんなカメの中にある才能と可能性を見出し私という存在を世に届けてくださったのが浅利慶太先生。素人同然だった自分を主演まで引き上げてくださった恩人です。
この記事では劇団四季退団後、企業で研修講師としてキャリアチェンジし活動している私でしかお伝えできないことを、浅利先生との実際にあったエピソードや私が学んだ事を通してお伝えします。
■浅利慶太先生の育成のスタンスとは
経営者、演出家、プロデューサー
浅利先生は3つの顔を持ちそれぞれで卓越した能力を発揮して不安定と言われる興行つまりショービジネス界において一代で200億企業に育て上げた、言わずと知れたカリスマ経営者です。
同時に浅利慶太先生は数々の作品を生み出しOB含む数々の名俳優を育てあげてきました。
浅利先生の哲学や信念は語っても語り尽くせぬものですがその中でも私が一番知ってもらいたいのは人の可能性を見出して能力を引き出し、リスクを承知で抜擢して現場で育てていくスタンスです。
■今の技術ではなく伸びしろと可能性
浅利先生が亡くなったニュースが流れた後、SNS上では劇団四季俳優含む関係者の多くのコメントが流れていました。皆が言っていたことがあります。
先生に育てて頂いた
先生がいなかったら今の自分はいない
先生には感謝しかない
「演出家の仕事は俳優を育てる事」と浅利先生はよく言われていましたが、人を育てるプロフェッショナルでもありました。
私自身も浅利先生と出会わなかったら今の自分はないと言い切れます。
私が劇団四季を目指して訓練を始め合格するまでの5年の修行期間、他プロダクション主宰の様々なミュージカルのオーディションを受けました。しかし一度も合格することはありませんでした。
そんな私をプロの世界に始めて引き上げてくれたのが浅利先生です。
「お前は不器用だけど必死に努力する」
それまでほとんどがその場の技術だけで評価され不採用となる中、浅利先生は私の人間性を見抜いてこう評価してくれました。
“僕は努力を継続する力だけはあります。今は下手くそですが必ず上達します。見ていてください。”いろいろな人に心の底で訴えてきたのですが僕のこの想いを汲み取ってくれたのは浅利先生だけでした。
浅利慶太先生はその時の技術レベルだけでなく、努力する姿勢や人間性を通して長期的視点で伸びしろと可能性を見る方です。
すれ違い際に鋭い視線と目があった際はクラクラするほど緊張したのですが”お前の努力をみているぞ”という合図をいつも送ってくれているように感じました。
「10年努力して下手くそな奴はいない」
浅利先生の言葉です。
新聞社より取材を受けた私のコメント
■1mmの成長や変化も見逃さない洞察力
浅利慶太先生は「演劇の本質は脚本の文学的要素を正確に観客に届ける事」とよく言われていました。
そのために長い年月を経て生み出されたのが劇団四季の舞台の骨格を成す方法論(母音法・呼吸法)です。インスピレーションを受けたのは指揮者の小沢征爾さんの言葉で「名ピアニストの音は一音一音が粒だって客席の隅々まで届く」。
台詞も同じと考えた浅利先生はそこから母音法という方法論を生み出し「一音落とすものは去れ」というスローガンを掲げ実践し進化させました。
ゆえに俳優が自分の色をつけて表現したり、うまく魅せようとして方法論から外れると厳しく注意し、時にはキャストチェンジにするほど脚本を敬い方法論に忠実でした。
「舞台を制作する上でベテランも新人もない。むしろベテランの方こそ肉体の衰えを補うために訓練を継続し何倍も努力しなければならない。」
長く組織にいるから安泰などありません。ベテランだろうが新人だろうが関係なく全員で継続的に訓練を続けました。
その方法論に忠実に訓練を重ねた人は自分の身体がプロの極みへと進化します。
浅利先生は、この方法論への取り組む姿勢とたった1mmの成長の変化をも見逃さないような洞察力を持たれていました。
「お前、先週はできていなかったところができるようになっているな」すれ違い際にボソッと声をかけて成長を見ていてくれるのです。
陰の努力の過程を承認されると人は自尊心が高まりやる気が高まります。
「この人のためにも頑張って成長しよう」
こう思った俳優はきっと私だけではないでしょう。こうして方法論に忠実に訓練し大きく化けて成長する人材を次から次へと抜擢するのです。(私は下手過ぎて抜擢されるまでに8年以上かかりましたが・・・笑)
台本の表紙に記した浅利先生の言葉。「心の隙を直せ」「役者とは役の前で消え役を生き透明になること」「作った芝居を壊さない」・・・など
■計り知れない気配り力
話は逸れますが、浅利先生はトップの経営者・演出家でありながら“よくそこまで見ることができるな”と驚くほど隅々まで気配りをする方でした。
劇場の元アルバイトスタッフがこんなエピソードをつぶやいていました。
「四季劇場でアルバイトしていた時、初日の幕が開く前に浅利さんがいらした。劇場中ピリピリで、私達は遠巻きでお迎えしたら「あの子達は何であんな遠くで立たされてるんだ?君たち、リハ見たい子は遠慮せず入りなさい、同じカンパニーの人間なんだ!」って”仲間”に入れてくださったのです。」
このようにスタッフ・俳優に関係なく隅々まで気配りをされる方でした。
私も直接的エピソードがあります。
舞台上で使用する衣装の靴(高下駄)が初日の数日前に届き、またそれが不安定で“これでは転んでしまう、どうしよう”と恐怖感に襲われていました。しかし衣装である靴のチェンジは申し出ても許されませんでした。その時です。浅利先生がスッと近くに寄ってきて「この高下駄で傾斜舞台上を踊らせるのはかわいそうだ、すぐ作り直しなさい」と小道具さんに改良の指示が行き、その鶴の一声により衣装靴チェンジが決まり恐怖から解放されたのです。
この人は見ていていくれている。感情を汲み取ってくれる。いろんな場面で感じさせる方でした。
■劇団四季の理念
浅利先生が繰り返し劇団員に伝えていたのが劇団四季の理念です。
なぜ私たちは演劇をやるのか?
「劇団四季の一番の目的は作品を通して”人生は生きるに値する”と言うメッセージを観客に届ける事。不断の努力でその理念を受け継いでいく事こそ劇団四季の繁栄。逆にもしそれがぶれたら劇団はすぐ消滅してしまうよ」
なぜ舞台上に立つのか?その存在意義を腑に落として舞台に立つのか、ただなんとなく舞台に立つのかでは大きな差です。
経営の神様と言われるドラッガーも組織における理念浸透の重要さを伝えています。
俳優一人一人が自分たちの仕事の意義(理念)を落とし込んで仕事をする事により、心の底に誇りが生まれそれがプロ意識へとつながり人材が成長するのです。
これは演劇だけではなく一般企業にも直結する重要なメッセージではないでしょうか。
■浅利慶太先生へのこれからの恩返し
浅利先生から教えて頂いたプロフェッショナルマインドは演劇人だけではなくビジネスマンにもとても役立つ重要な心構えだと私は感じます。
その浅利イズムを私は教育の言語に変換して届けてきました。
退団後「先生に教わった事を経営者やビジネスマンに伝えています」と挨拶と報告に行ったら喜んでくださいました。
これからも浅利先生から教わったことをビジネスマンや経営者はじめ社会に還元することで私なりにゼロから育てて頂いた恩返しをしていきます。
先生がいなかったら今の私はありません。
育てて頂き、本当に本当にありがとうございました。
ご冥福をお祈りいたします。
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