目次
どうすれば部下が成長してくれるか?
どうすれば部下をやる気にさせることができるか?
部下をもつリーダー・マネジャー層の多くが、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。その解決方法の1つとして、本コラムではフィードバックについてお話しさせていただきます。
フィードバックを適切に活用していただくことで部下のモチベーションを高め、自ら主体的に動く人材に成長させてくれます。
そのためのフィードバックの進め方、注意点まで詳しく解説いたします。
近年、多くの企業様で「部下は褒めて伸ばす」ということを意識されています。しかし、褒めて伸ばすだけではなく、時には部下にとって「耳の痛いこと」でもハッキリと言わなければなりません。
部下との信頼関係を構築しながら、耳の痛いことも愛をもって伝え成長を促す。そのためのフィードバックのノウハウを余すところなくお伝えしていきます。
フィードバックとは何か?
フィードバックとは、ある人の「行動」、「その行動がもたらす結果」に対して、第三者が行う評価・情報提供のことです。
企業の中では、上司が部下に対して行うケースが多いです。
フィードバックという言葉そのものは、元々はシステム開発の用語として使われてきました。ソフトウェアなどがプログラミング通りに動いているかどうかをテストする際、入力の結果として返ってくる出力のことを「フィードバック」と呼んでいました。
それが人材育成の分野でも使われるようになり、部下のある行動(入力)に対する上司からの評価・情報提供(出力)という意味でフィードバックが使われるようになりました。
フィードバックの一番の目的は部下の成長にあります。
近年、人材育成の分野では、部下を「褒めて伸ばす」ことが主流になってきました。褒めた方が伸びる人材がいるのも間違いありません。
厳しいことを言われるのが「パワハラだ」と部下に受け止められてしまう可能性もあるでしょう。しかし、耳障りの良い褒め言葉ばかり投げかけることが、果たして本当に部下にとっての成長につながるでしょうか。
筆者である私は劇団四季というプロの舞台芸術の世界で10年間舞台に立ってきた異色の経験があります。最高の舞台を作り上げる過程で厳しいフィードバックが多々ありました。自分で自分のことはわかりません。顧客に感動を届けるというGoalに向けて、鏡となってフィードバックしてくれる演出家の存在は絶対に必要でした。
部下にとっては耳の痛いことでも、愛の心でハッキリ伝えるのが上司にとっての役割ではないかと、筆者は考えております。
フィードバックはどんな場面で使われるか?
フィードバックを行うのは、半年に一回の評価面談だけではありません。
部下の行動や成果(入力)があるたびに、都度行うのが理想と思います。本コラムでは、フィードバックが行われる場面の一例を取り上げます。
①仕事でミスをしたとき
ある企業の総務部で働いているAさん。
Aさんには文書の作成(議事録や業務マニュアルなど)をお願いしているのですが、誤字や脱字が多いのが問題と感じています。
このような時、皆さまならばAさんにどのように声かけしますか?
「何度言っても分からないやつだなぁ!」
と責めてしまう人も多いと思います。
しかし、こうしたタイミングこそ、部下であるAさんが自ら改善点を見出し成長するまたとないチャンスです。
②顧客からクレームを受けたとき
営業として顧客対応にあたっているBさん。
ふとした弾みでお客様を怒らせてしまい、会社に直接クレームの電話が来ました。
何がきっかけでお客様を怒らせてしまったのか?上司としては、部下のBさんの行動を振り返り、改善してほしいところです。
フィードバックはこうしたタイミングでも効果を発揮します。
③プロジェクト完了後の振り返りのとき
3ヶ月にわたる一大プロジェクトにアサインされたIT部門のCさん。
紆余曲折はあったものの、何とか期間内にプロジェクトが終わり一安心しているところ。
ですが、そのようなタイミングこそ、Cさんへフィードバックするのに絶好の機会です。
プロジェクトの中でCさんが果たした役割、貢献できたところ、当初期待していたパフォーマンスと現状のギャップ、次のプロジェクトに向けての改善案の抽出など。
Cさんの次なる飛躍のために、上司はこうしたタイミングでフィードバックを行うべきと考えます。
④評価面談のとき
いまや多くの企業で取り入れられている目標管理制度。
半年に一度のタイミング行われる人事考課のための上司と部下の面談。ただし、査定のための面談と考えると、部下としても気が重たくなってしまいます。
「部下の成長やモチベーション向上」という視点で、ぜひフィードバックを行っていただきところです。
フィードバックが部下の育成にもたらす効果やメリット
フィードバックを活用することで部下の成長をもたらします。
そこで、本章では「部下の成長」とは何かをもっと具体的に説明していきたいと思います。
①部下が自ら考えるようになる
フィードバックを適切に行うことは部下が自ら考えて動く力を育みます。
どうすれば次は同じ失敗を繰り返さないで済むのか?
どうすれば目標を達成できるようになるか?
どうすれば自らの能力を高められるのか?
部下が自分ひとりで考えるだけでは、なかなか気づきは得にくいです。
上司との対話を通して部下に気づきをもたらすことで部下は自ら改善に向けて動き出します。
②部下のモチベーションが上がる
フィードバックによって部下のモチベーション向上につながります。
モチベーション理論を学んだ方ならばご存知かもしれませんが、モチベーションには「外発的な動機付け」と「内発的な動機付け」の2パターンがあります。
外発的動機付けは、昇給や福利厚生、上司や同僚からの褒め言葉など、部下以外の誰か(何か)によってもたらされるモチベーション要因です。
内発的動機付けは、自らの興味・関心や仕事への意義づけなど、部下自身の内側から湧き出てくるモチベーション要因です。
適切なフィードバックによって部下に自らの仕事のパフォーマンスを考えさせることは内発的動機付けを育むことにつながります。
外発的動機付けは途切れたらおしまいですが、内発的動機付けは自分が持ち続ける限り途切れることがありません。内発的動機付けに基づいて仕事をする部下は最強です。
③主体性を育む
主体性とは、目標もやることも決まっていない状況の中で、自ら問題を発見し解決に向けて考え・行動に移すことです。
主体性を持つことは、将来の会社経営を担うリーダー・マネジャーにとっては必須とも言える力です。
上司からのフィードバックを元に、部下が自ら改善に向けて考え・行動に移す。それを繰り返すことによって、誰から言われなくとも自ら問題を見つけ出し解決に向けた行動を取る。
長い道のりではありますが、フィードバックには部下の主体性を育む効果もあるのです。
④離職防止につながる
上司が適切なフィードバックを行うことは、長期的に見て部下の職場への定着を促し、離職防止につながるものと考えます。
特に、入社間もない社員にとっては効果的と思います。なぜならば、入社間もない社員の離職する原因の一つとして、職場での人間関係(上司や同僚など)があるからです。
部下にとって、上司が信頼に値する存在であり、同じ職場で仕事をすることが自らの成長につながると実感できるならば、部下が簡単に離職することはありません。
フィードバックを行う上で注意すべき3つのこと
本コラムで何度もお伝えさせていただいていますが、褒めて伸ばすだけでは部下の成長にはつながりません。
とは言うものの、人間誰しも厳しいことを言われるのは気分の良いことではありません。
特に、ミレニアル世代と言われる人たちは、承認欲求(自分の存在を認めてもらいたい欲求)が強い一方で、指摘や批判に対して打たれ弱いです。
私は劇団四季時代、プレイングマネジャーとして後輩の育成をしておりました。その中でもプロの舞台の主人公の役割を担う「子役に育成」の際は、褒めるだけでは子役の成長に繋がりませんでした。子供は繊細です。しかしプロとして結果が求められます。
これらの私の育成経験を踏まえた上で、フィードバックを行うに当たっての注意すべきことを3つにまとめてお伝えさせていただきます。
①部下との信頼関係を築いていることが前提
フィードバックを行う上で、上司と部下の間で信頼関係ができていることが大前提です。誰しも信頼していない人からキツいことを言われても聞く耳を持ちません。
フィードバックを行う前に、普段から部下とコミュニケーションをとっているかどうか、部下の話に耳を傾けているかどうかを、一度振り返っていただければと思います。
仕組みに落とし込むならば、1on1を定期的に設けるのも一つの手段です。
②部下の人格を批判してはならない
多くのリーダーがやりがちなのは、部下の「とった行動に対する批判・指摘」と「人格の批判」を一緒くたにしてしまうことです。
しかし、本来ならば部下の行動を改めるところなのに、人格を批判してしまうと部下は上司に心を開かなくなります。たとえば、先ほど例にあげましたAさんのケースで説明していきましょう。
Aさんが作成する文書では、必ずと言って良いほど誤字や脱字があります。
「なんでお前はいつも誤字ばかりなんだ」
「何度言ったら分かるんだ!」
誤字や脱字に対して指摘しているつもりかもしれませんが、同時にAさん自身のことを批判していないでしょうか。
このような言い方ばかりでは、Aさんもうんざりしてしまいます。
行動を改めるどころか「自分は何度文書を書かせても誤字ばかりのダメな社員だ」と自分を責めてしまうかもしれません。
部下の人格を否定するのは絶対に避けなければなりません。
部下の成長を後押ししたい。上司のこうした心構えを前提とした上で、行動に焦点を当てて改善を促す必要があります。
③改善してほしいところを具体的に説明すること
フィードバックによって部下の行動や意識を変えていくならば、改善してほしいところを具体的に説明する必要があります。
先ほどのAさんの例でいうならば、「文書に誤字・脱字が多い」ことだけを指摘しても、何の改善にもつながりません。
私の子役育成の現場でも全く同じで、まずは信頼関係を構築し、同じミスを何回繰り返しても絶対にヒトではなくコトにフォーカスしてフィードバックし改善が必要なところを具体的に説明しました。ミスを繰り返した場合は「前回からどんなことを考えた?」など質問によって考えさせました。
具体的な伝え方については、次の章で詳しくお話ししていきたいと思います。
フィードバックの手法を2つご紹介
フィードバックを行う上で注意すべきことは3つあります。
①部下との信頼関係を築いていることが前提
②部下の人格を否定してはならない
③改善してほしいところを具体的に指摘する
この大前提を踏まえた上で、フィードバックの具体的な手法について2つのメソッドをお伝えしたいと思います。
①シット・サンドイッチ
シット・サンドイッチは、厳しい指摘の前後に承認・称賛の言葉を入れる手法です。
「褒める→指摘する→褒める」の流れで部下へのフィードバックを行います。「シット=厄介なこと」を、「褒める」で挟むからシット・サンドイッチという呼び方です。
シット・サンドイッチは「相手の人格を尊重」した上で「相手の行動を厳しく指摘する」のが特徴です。
批判に対して打たれ弱い人には、効果的な手法とも言えるでしょう。
先ほどのAさんを例に出してシット・サンドイッチのやり方をイメージしていきます。
【褒める①】
「Aさん、ちょっと良いかな?いつも文書作成ありがとう。とても助かっている。ただ今回聞いてほしいことがあるんだ。」
【指摘する(シット)】
「前からAさんの文書に誤字・脱字が多いことが気になっていてね。Aさんが書いてくれた業務マニュアルを読んだ製造部の人から、『◯◯の工程について文言が違っている』と指摘を受けたんだ。単なる誤字で済むならばいんだけど、前にマニュアルに書かれたことが誤っていて現場でトラブルになったこともあるからね。各部署に配る前に、Aさん自身でしつこいくらいセルフチェックをしてほしいと思っている。」
【褒める②】
でも、Aさんはちゃんと納期を守って仕事をこなしてくれるから、私たちも非常に助かっているよ。Aさんは私たちの部署になくてはならない存在だから、これからも貢献してほしい。いつもありがとう。」
こんな風に言われたAさんはどう思うでしょうか?決して悪い気分にはならないと思います。上司からのフィードバックを素直に受け止めて、自分の行動を見直さなければという気持ちになるはずです。
②FBI方式
FBI方式とは、Feeling(気持ち)、Behavior(振る舞い)、Impact(影響)の頭文字をとったものです。
Feeling(気持ち):部下のとった行動に対して、上司はどんな気持ちなのかを伝える。
Behavior(振る舞い):上司をそんな気持ちにさせた部下の具体的な振る舞いは何か?
Impact(影響):その振る舞いによって、周りに対してどんな影響を及ぼしたか?(及ぼしかねないか?)
これは部下のことをただひたすら批判するだけの手法に見えかねませんが、実はそうではありません。FBI方式は、相手の行動を改善したいときだけでなく、相手のとった行動を褒めるときにも効果を発揮します。
先ほどのAさんが、初めてミスなくマニュアルを提出できたとしましょう。FBI方式を使って、以下のように言葉を投げかけてみてはいかがでしょうか。
Feeling(気持ち)
「Aさん、とっても嬉しいよ!」
Behavior(振る舞い)
「マニュアルをミスなく完璧に完成させてくれたね」
Impact(影響)
「製造部の人たちは、『Aさんが書いてくれたマニュアルはわかりやすくなって仕事もスムーズに進めやすい』と言ってくれていたよ。この調子でこれからもお願いね。」
Aさんに対して、「あなたは素晴らしい」と抽象的に褒めるよりも、こちらの方がAさんに響くような気がしませんか。
筆者の研修の様子
フィードバックとフィードフォワードの違い
フィードバックに似た概念としてフィードフォワードがあります。
フィードフォワードとは、「これからどんな仕事をしていきたいか?」「どんなキャリアを描いていくか?」など、理想の未来に焦点を当てさせることで、部下のパフォーマンス向上につなげる手法です。言葉は似ていますが、両者はまったく異なる概念といっても良いかもしれません。
「過去の行動」に焦点を当てるフィードバックに対し、「未来の理想の姿」に焦点を当てているのがフィードフォワードです。
フィードバックとフィードフォワードはどちらが良くてどちらが悪いという話ではないと思っています。
フィードフォワードの主な目的は、部下の内発的動機付けを引き出すことにあります。コーチングの世界では良く用いられることです。
日常業務に追われていると、「自分がどうしたいのか」など考える余裕もありません。そうした中で、上司から「あなたはこれからどうしたいのか?」と問われれば、脳は自然と未来志向になります。
初めは未来のことなど想像しようもないかもしれませんが、未来のことを考えるのが当たり前になってくると、自然と未来の理想の姿がイメージできるようになります。
たまたま休みの日に観に行ったコンサートが、未来の理想を描くきっかけになるかもしれません。理想の姿を思い描けるようになると、普段の仕事に対する姿勢も変わってきます。だからといって、いま目の前の仕事をコツコツと改善していかなければ、未来の理想に近づくことなどできません。
フィードバックとフィードフォワードは、場面に応じて使い分けるべきものと考えています。
フィードバックとは?まとめ:褒めて伸ばすだけが人材育成ではない
フィードバックについてここまでお話しさせていただきましたがいかがでしたでしょうか。繰り返しますが、部下を「褒めて伸ばす」だけが人材育成ではありません。
部下の成長のために、ときには厳しいことを言わなければならない場面もあります。
厳しいことを言うのは、お互いにとって辛いことです。部下のことを思うと、厳しいことを言いづらい気持ちも理解します。
フィードバックは、部下のことを大切にしている・成長を願っているという想いを前提として、厳しいことをハッキリ言って部下の行動・意識変容を促す手法となります。
厳しいことを言われれば、頭をガツンと殴られたような気分になり、「どうにかしなければ」という気持ちに自然となります。部下をお持ちのリーダー・マネジャー層の方々は、ぜひ職場で実践していただければ思います。
その際、フィードバック能力の向上につながる「部下育成のための質問力の磨き方」もお読みになり参考にしてみてください。
実践してみた結果をご報告していただけると、私も大変嬉しく思います。
筆者プロフィールはこちら
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・お荷物赤字社員で営業をクビ
・人体実験のバイトで廃人
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ダメダメフリーターだったコラム筆者が劇団四季の主役にまで上り詰め人気講師となったリアル人生逆転物語です。
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