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サーバントリーダーシップとは何か? 研修講師が実例とともにデメリットも解説

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部下をどう育てたら良いのかわからない
部下のモチベーションを上げるにはどうしたら良いのか?
マネジャーが仕事を抱えすぎていて、部下がなかなか育たない
 
部下の育成、マネジメントに関するこうした悩みを抱えている企業様も多いのではないでしょうか?また、これまでのように、指示・管理によって人を動かすスタイルのマネジメント(いわゆるトップダウン型)に限界を感じている方も多いのではと思います。
 
部下への権限移譲が大事なのは理解しているものの、単に丸投げするのもダメだし・・・・どう権限移譲すれば良いのかわからない方もいらっしゃるはずです。
 
こうした悩み解決の切り札になるのがサーバントリーダーシップ(支援型リーダーシップ)です。本コラムでは、サーバントリーダーシップ(支援型リーダーシップ)について詳しく解説してきます。


 
ロバート・K・グリーンリーフという米国の組織開発の研究者が、サーバントリーダーシップの概念を提唱していまして、2008年には彼の和訳書も出版されているのです。しかし、この本がまた分厚くて難解に感じる方も少なくありません。
 
そしてサーバントリーダーシップについてよくある誤解が次のようなことです。
 
リーダーは部下にとっての良き「奉仕者」でいること。それこそがサーバントリーダーとしてのあるべき姿だ。筆者もグリーンリーフ氏の著書を読むまでこのように考えておりましたが、それが大きな誤解であることに気づきました。
 
サーバントリーダーは単なる奉仕者などではありません。本コラムを読み進めているうちに、筆者の言わんとしていることも理解していただけるでしょう。
 
部下を育てる立場にあるマネジャー、新人を指導する立場にある若手社員には特に読んでいただきたい内容です。サーバントリーダーシップを学び現場で活かせるようになれば、上司と部下、若手と新人の関係性が深まると同時に、仕事での成果にもつながりやすくなるからです。
 
それでは、詳しく見ていきましょう。

サーバントリーダーシップとは何か?支配型リーダーとの違いは何か

トップに立つ人間が、組織・チームとしてのビジョンや目標を掲げ、それの達成に向けてメンバーを先導していくもの。皆さまも含めて大多数の方が想像されるリーダーシップは、おそらくこのようなものではないでしょうか。

社長や上司から言われたことならばその指示に従う。上の言うことは絶対であり、そこに違和感や反論があったとしても、上から言われたことならば仕方なく応じる。
 
そう言った主従関係が成り立っているのが、従来型のリーダーとフォロワー(リーダーに付き従う人)の間の関係かと思います。いわゆる「支配型リーダーシップ」のスタイルです。
 
戦略における経営資源として人・モノ・金・情報とよく言われるように、これまでは人材はモノや金、情報と同列に扱われる傾向がありました。
 
言うならば、その会社で働く社員は、会社にとって歯車の一部に過ぎないと言う状態です。そこに対して社員個人の価値観などを挟み込む余地などありません。
 
逆に社員としては、リーダーの言われた通りに従っていれば良いだけですから、楽といえば楽な立ち位置です。社長や上司の言うことに従っていれば、会社も安泰だし自分の将来も保証されているわけですから。
 
一方で、皆さまとしてはこうした不満の声もあると思いませんか?
 
「社員にはもっと自分から主体的に動いてもらいたい。」
「上から言われたことだけをハイハイとやっているだけでは困る。」
「現場でお客様と接している社員こそ、将来を見据えた画期的なアイデアを出してほしい」
 
ただし、これまでのように上からが一方的に先導する支配型リーダーシップでは、社員はただ上からの言うことに従っているだけだし、本来もっている能力も十分に発揮しきれていないかもしれません。
 
社員としても、本当は不満に思っていることでも、泣く泣く我慢して本音で話せていない可能性があります。不満が爆発した結果として、会社を辞めてしまったりしたら、双方にとってあまり好ましい状況とはいえません。
 
そうした中で注目されているのがサーバントリーダーシップという新しいリーダーシップの概念です。
 
サーバント(servant)を直訳すると「召使い」や「使用人」となります。
 
召使い型のリーダーシップ
使用人型のリーダーシップ
 
会社の社員、部下は「支配」する対象ではなく「奉仕」する対象と捉え、社員たちの自己実現をサポートするのがリーダーの務めであるというスタイルがサーバントリーダーシップです。
 
坂本光司先生の『日本でいちばん大切にしたい会社』で紹介されている伊那食品工業様や未来工業様のように、社員を家族のように大切にし、社員への奉仕が会社の持続的な成長につながると考えていらっしゃる会社さまもいらっしゃいます。


 
会社から応援されている、自分の存在を認めて大切にしてもらえている。そういう感覚があるからこそ、社員も自然に会社に対するエンゲージメントが高まるし、仕事に対しても主体的に取り組む気持ちになります。
 
社員が離職してしまう原因が人間関係になるならば、そうしたエンゲージメントの強化は社員の離職防止にもつながります。

サーバントリーダーシップは従来型リーダーシップを完全否定していない

誤解をしないでいただきたいのは、サーバントリーダーシップは従来型のリーダーシップ論を完全否定しているわけではありません。
 
リーダーが部下たちに対してただひたすらに奉仕し続ければ良いというわけではないのです
 
ただ奉仕するだけでの上司は、部下とって都合のいいだけの「召使い」でしかありません。
 
リーダーシップ論がそもそも何のためにあるのかといえば、仕事で成果を出すことに他なりません。ですから、サーバントリーダーを「使用人」「召使い」と読み違えないでください。部下に奉仕することが目的化してはいけません。
 
リーダーシップ論としては、元々は「仕事の結果中心」の軸と「人間関係中心」の軸の2つの軸で議論されていました(PM理論という)。


 
リーダーシップ像を仕事の結果中心で求めるのが、先に申し上げた支配型リーダーシップです。だからといって、部下との人間関係、信頼関係が醸成されれば良いわけでもありません。それだけでは、単に部下にとっては都合の良いお人好しの上司で終わってしまいます。
 
結果の軸と人間関係の軸。両者を統合させていくことが、真のリーダーシップであって、サーバントリーダーシップの目指すべき姿とも言えます。

サーバントリーダーシップの前提はリーダーとフォロワーのベクトル合わせができていること

これも誤解されがちなことですが、リーダーが誰に対してもサーバントリーダーのスタンスを取るべきだと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。
 
サーバントリーダーシップの前提として、組織が目指す姿とフォロワーである部下たちが求めていることのベクトル合わせができていることです。
 
たとえば、筆者のコラムでたびたび取り上げているサイボウズ社。
 
創業当時は離職率が28%まで跳ね上がりブラック企業のレッテルを貼られていましたが、今では働きやすい会社として注目を浴びています。
 
サイボウズ社では、「100人100通りの人事制度」という言葉があるように、どのような働き方をするかを社員一人ひとりが選びます。出社してフルタイムで働く社員もいれば、在宅で子育てと両立しながら働く人もいる。
 
サイボウズ社の人事制度は、社員からの要望に応じて常にアップデートされているそうです。働く人間からすればとても羨ましい制度にも見えるのですが、サイボウズ社として社員の要望ならば何でもかんでもかなえているわけではありません。
 
サイボウズ社のこうした働き方の前提にあるのは、「世界でいちばん使われるグループウェア企業になる」というビジョンです。そのビジョンに共感した社員がサイボウズ社に集まり、その社員が最大限のパフォーマンを発揮できる施策を認めているのです。
 
サイボウズ社の代表取締役の青野慶久氏は、自著の中で「フラスコ理論」としてこれを説明しています。フラスコとは、理科の実験で出てくるあのフラスコのことです。
 
化学反応を進めて新しいものを生み出すための実験器具です。会社の中には多様な価値観をもち多様な働き方をする人材が集まります。こうした人材の持つ力をまとめチームとして成果を出すには、共通のビジョンを共有し、そこに向かっていく推進力が必要です。
 
「共通のビジョン」と「多様な人材」の2つが混じり合うことで、相乗効果によって組織として圧倒的な成果を上げることができるという考え方です。
 
社員の要求うることを一方的に叶えるだけでは、単なるお人好しでしかありません。文字通りの使用人でしかなくなってしまいます。
 
サーバントリーダーは、サーバント(使用人)である以前にやはりリーダーでなければなりません
 
自らがワクワクするビジョンを打ち出すからこそ、そのビジョンに共感する人たちが集まる。それによって組織としてのパフォーマンスも上がります。
 
社員を熱狂させることを考える前に、まずはリーダー自身に熱狂するものがあるかどうかも問われるのです。
 
もう一つ具体例をあげさせていただくと、米国にある靴の通販サイトを手がけるザッポスです。
 
筆者の組織文化についてのコラムでも紹介させていただいてますし、筆者自身も過去にザッポス本社を視察したことがあります。アメリカでは、働きがいのある会社として注目を集めるザッポス。
 
創業者でCEOのトニー・シェイ氏も、自分でぐいぐいと引っ張るようなカリスマリーダーではなく、社員の働きがいを重視するサーバントリーダーでした。
 
働きがいがあると言われているザッポスですが、誰でもザッポスに入社できるわけではありません。ザッポスをザッポスたらしめているのは、ザッポスが掲げる10のコアバリューにあります。

  1. ①サービスを通して「WOW!」という驚きの体験を届ける
  2. ②変化を受け入れ、変化を推進する
  3. ③楽しさとちょっと変なものを創造する
  4. ④冒険好きで、創造的で、オープン・マインドであれ
  5. ⑤成長と学びを追求する
  6. ⑥コミュニケーションにより、オープンで誠実な人間関係を築く
  7. ⑦ポジティブなチームとファミリー精神を築く
  8. ⑧より少ないものからより多くの成果を
  9. ⑨情熱と強い意志を持て
  10. ⑩謙虚であれ

 
ザッポス本社で筆者が受けておもてなしは、まさに1つ目に掲げる「WOW!」そのものでしたが、こうしたコアバリューを採用段階も入社後も徹底しているのです。
 
ですから、誰でもザッポスに入れるわけではありませんし、既存の社員もコアバリューから外れた行動を取ろうものならば解雇が免れられません。
 
サイボウズもザッポスも働きがいのある会社として定評があるのですが、社員がその制度の上にふんぞり返っているわけではありません。会社として大切にしている文化、目指すべき姿。そこと社員の価値観が一致していることを前提として成り立っているものなのです。

サーバントリーダーに必要なのは他者理解の前に自己理解から

ここまで読んでいただきますと、サーバントリーダーには奉仕以外のあらゆる能力が求められることがお分かりいただけると思います。
 
グリーンリーフ氏の著書『サーバントリーダーシップ』の巻末では、サーバントリーダーの属性を以下の10パターンにまとめているのですが、これをそのまま読んだだけではどうもピンときにくいものがあります。
 

  • ①傾聴:相手の話に耳を傾けると同時に、自分の内側の声にも耳を傾ける。
  • ②共感:相手の気持ちを理解し、共感することができる。
  • ③癒し:人と自分の傷を癒すことで組織全体の最適化につながる。
  • ④気づき:自分のことを知る。自分の所属する部門のことを知る
  • ⑤説得:相手を恐怖で服従させるのではなく、対話などを通して人々を説得する。
  • ⑥概念化:既存の価値観に囚われることなく、視野を広げて大きな夢を描く
  • ⑦先見力、予見力:過去〜現在までの状況から未来を見通す。
  • ⑧執事役:自分が利益を得るよりも、まずは相手の利益を第一に考える。
  • ⑨人々の成長に関わる:部下の成長にコミットする。
  • ⑩コミュニティづくり:自分と関わるメンバーが成長できるコミュニティを作りだす。

 

この10の属性を見ていただければご理解いただけますが、文字通りの「奉仕」の要素は、サーバントリーダーシップの中のごく一部に過ぎません
 
相手の話に耳を傾け、共感することが大切なのはいうまでもありません。しかし、それ以上に大切なのは、優れたリーダーは自分自身のことを深く理解しているということです。
 
自分自身の内側の声に耳を傾け、マインドフルな状態こそがサーバントリーダーとしての能力を高めることを知っているのです。本コラムでもご紹介しているマインドフルネス。マインドフルネスの本質はこうした自己との対話を促進し、気づきを得る・自分のことを深く知ることにあると思います。
 
日本では企業の健康経営の一環として取り入れられるケースもありますが、これからはマインドフルネスがリーダー育成の必須科目となる可能性もあるかもしれません。
 
相手のことを深く理解し共感できるリーダーは、まず何よりも自分自身のことを深く知り、自分の優れた側面も弱い側面も、全てをありのままに認められるものです。

サーバントリーダーシップがもたらす3つの効果

職場のリーダーがサーバントリーダーになることで、部下や会社に対して様々な変化をもたらすことが期待されます。以下に3つのサーバントリーダーシップがもたらす効果を紹介します。

①細かく指示しなくても部下が主体的に行動できるようになる

部下が自分の意思で仕事に取り組み、成果を出すことを応援するのが、サーバントリーダーに求めれる役割です。部下に対して大きな役割を任せる。リーダーは部下対して細かく意思じを出すのではなく、部下の成長を見守ります。

②社員の離職防止につながる

上司に自分の存在価値を認められている。
会社から自分の存在を必要とされている。
ありのままの自分を受け入れられている。
 
心理的安全性が個人とチームのパフォーマンスを高めることは、Googleがすでに実証済みです。会社と社員との間にそうした絶対的な信頼関係があることがエンゲージメントの必須条件でもあります。
 
そうした信頼関係があるからこそ、社員も簡単に離職することなく、その会社で働き続けたいと思えるようになるのです。

③マネジャーの仕事の負荷も減る

上層部の経営方針を汲み取る。
それを元に自分たちの部署の方針・計画を立てる。
部下に仕事の指示を出す。
捌き切れない業務は、最終的にマネジャーが巻き取る。
部下を育成する。
 
マネジャーの負荷が大きいというのは、多くの会社が抱えている課題かと思います。部下に仕事を任せ切ることができず、マネジャーが仕事を抱えてしまうことが多いのです。
 
かといって、これまでのように恐怖で部下をコントロールするやり方、こと細かく指示をするだけのやり方(マイロマネジメント)では、部下のモチベーションも上がらないし離職にもつながります。
 
サーバントリーダーシップは、リーダー育成の具体的な方法論を説いたものではありません。どちらかといえば、これからのリーダーのあり方を示した本といえます。
 
こうしたあり方を実践するのは一筋縄ではいきません。しかし、サーバントリーダーとして成長することによって、部下との関係は確実に良くなり、マネジャー本人の負担が減ることは間違いありません。

サーバントリーダーシップのデメリット

これからのリーダーの理想像を垣間見ることができるサーバントリーダーシップ。
 
しかし、デメリットがあります。それは、主体性をそもそも発揮する気がない社員にこうしたリーダーシップをとっても通じないということです。
 
サーバントリーダーシップの目指す姿は、社員の主体性を引き出し組織のパフォーマンスを最大化することにあります。しかし
 
そもそも主体性を発揮したくない
上司から言われたことだけやっていればいい
 
こうした考えを変える気のない社員に対して主体性を期待するのはとても難しいのです。 この段階の人材に対しては、言われた通りに仕事をこなせるように明確な指示命令を行う方がパフォーマンスは発揮できそうです。
  
発達心理学の世界ではこうした人材はレベル2の段階にあると言われ、リーダーは発達レベルを引き上げるような関わりを時間をかけて根気強くしていく必要があると言われます。詳しくは「なぜ部下とうまくいかないのか」(加藤洋平著)をご覧ください。
 
こうした指示待ち型社員が悪いとは申し上げません。発達レベル2の人材が悪いわけではないと発達心理学の中でも記されています。社員に対してどこまで主体性を求めるかによって、こうした社員に対する関わり方が組織のスタンスとして求められるということです。
 
ケン・ブランチャードの名著「1分間リーダーシップ」の中でも、指示から支援のスタンスに四つの段階を経て関わり方を発達させていく必要があると、近しいことが書かれています。

サーバントリーダーシップの成功事例3社

①スターバックスコーヒー


サーバントリーダーシップの成功例としてよく話題に上がるのが、アメリカのシアトルで創業したコーヒーチェーンのスターバックスコーヒーです。
 
当時、シアトルの小さなコーヒーショップだったスターバックスが、ハワード・シュルツ氏をCEOに迎えてから事業が劇的に加速しました。
 
真ん中にセイレーンの絵を表した緑色のロゴ。日本でも街を歩けばこの緑色のロゴを至るところで見ることができます。
 
当時のアメリカでは、安くてそれなりに美味しいコーヒーしか飲まれることがなく、スターバックスコーヒーのような値段の高いコーヒーを飲むような嗜好はほとんどなかったそうです。
 
スペシャルティコーヒーを飲むのが当たり前になっているイタリアの文化。そこに魅せられたシュルツ氏は確信したのです。アメリカでもこの文化は必ず流行すると。
 
シュルツ氏は多くの人の反対を受けながらもその固い信念を現実のものとし、アメリカのみならず世界各地でスターバックスを展開していったのです。
 
(あくまで主観ですが)スターバックスを訪れると、店員さんの心のこもった接客に感動を覚えたことがありませんか?マニュアル通りにただ接客をこなすのではなく、一人ひとりのお客様に対して、心のこもったおもてなしの対応をしているのです。筆者も企業様向けに接遇研修を行うことがあるのですが、スターバックスの店員さんの接遇力の高さには驚かされるばかりです。
 
その背景にあるのは、「社員のことを大切にする」というシュルツ氏の哲学にあるのではないかと思います。
 
シュルツ氏は、「すべてのパートタイマーに健康保険制度を適用する」という当時としては異例の待遇を設けたのです。当然ながら、シュルツ氏の提案に反対する取締役が大多数でした。
 
シュルツ氏は、「なぜ」そこまでのことをやったのでしょうか?
 
スターバックスの成功例を語るにあたり、どうしてもシュルツ氏が「何をやったのか?」「どのようにやったのか?」に注目されがちです。しかし、シュルツ氏と全く同じ施策を横展開したからといって、他の会社で同じように成功するとは限らないのです。
 
シュルツ氏は、幼少時代にはとても貧しい生活を余儀なくされました。お父様はとても病弱であり、職場の中でも不当な扱いを受けていたために馴染めず、多くの職場を転々としていたそうです。子供たちを養うために借金もしており、裕福な暮らしとは程遠い幼少生活を送っていたそうです。
 
スターバックスを父でも働きたいと思えるような会社にしたい。社員を経営者の道具として扱うのではなく、かけがえのない家族のように大切にしたい。
 
サーバントリーダーでもあるシュルツ氏の源泉にあるのは、そうした幼少時代の辛い経験にあるものと思います。
 
ですから、これからサーバントリーダーを目指す方、サーバントリーダーを育成する企業様には、シュルツ氏の成功事例から学んでいただきたいのです。
 
「なぜ」シュルツ氏は社員を大切にしたかということを。
 
表面的にシュルツ氏の施策を真似たとしても、部下の心を掴むことはできません。部下の心を動かすことができるのは、心の底から大切にしているという思いと行動です

②サウスウエスト航空

一部の富裕層だけにとっての乗り物だった飛行機を、広く一般大衆に普及させ、低運賃ながら最高の顧客サービスを提供する。
 
そんな奇跡のような会社が、米国の航空会社サウスウエスト航空です。
 
数多くのLCCが業界に参入し、低運賃で飛行機に乗れるのが当たり前の時代。そのような中で、サウスウエスト航空では従業員の一人ひとりが主体性を発揮し、どうすれば顧客に感動を届けられるかを考え実行しているのです。
 
サウスウエスト航空が低運賃で飛行機を飛ばしてくれたからこそ、学生も数百キロ離れた大学に飛行機で通うことができるようになり、普段は離れた場所で暮らしている夫婦も週末は一緒に過ごすことができるのです。
 
彼らがアメリカの航空業界にもたらした変革は計り知れません。
 
サウスウエスト航空を創業した当時は、飛行機に乗るのは一部の富裕層の特権でしかありませんでした。
 
ハーブ・ケレハー氏をはじめとしたサウスウエスト航空の創業者たちは固く信じていたのです。一部の富裕層しか乗れない飛行機は、いずれ多くのアメリカ国民が気軽に利用できる乗り物になることを。
 
その前提には、従業員が会社に対して絶対的な信頼感(エンゲージメントとも言い換えられる)を寄せていることにあります。
 
従業員満足度やエンゲージメントという言葉が人材開発の業界で頻繁に使われるようになりましたが、サウスウエスト航空ほど従業員のことを第一に考えている企業は、そうはいないのではないでしょうか。
 
サウスウエスト航空の経営についての著書『破天荒〜サウスウエスト航空-驚愕の経営〜』では、こんなエピソードも書かれていました。
 
・CAの女性の息子さんが病気になったとき、前夫と息子さんのガールフレンドが息子さんへの見舞いに行けるように、自由に飛行機での移動が可能な無制限搭乗券を与えた。
・ある従業員のお母様が病気をされたとき、会社からお母様あてに花束が届けられた(従業員本人はそのことを知らなかったという)
 
従業員たちのことを心から大切にしている__。そのことを言葉だけでなく全力で行動に移しているからこそ、従業員も心の底から会社のことを信頼してくれるのです。
 
そうした信頼感が前提にあり、「リーダーたちがどんな顧客サービスを実践しているのか?」を主体的に学ぶようになります。最高の顧客サービスをすべての社員が提供できるようになるために、まずはリーダーが率先して見本を見せるのです。
 
サウスウエスト航空には顧客対応マニュアルのようなものはありません。従業員一人ひとりが、最高の顧客サービスとは何かを考えて実行に移しています。

③リッツ・カールトン・ホテル

ホスピタリティを実践に移したら、リッツ・カールトンホテルの右に出るものはいない。思わずそう呟きたくなるくらい、リッツ・カールトン・ホテルのホスピタリティには目を見張るものがあります。
 
日本支社長だった高野登氏も数多くの著書を出しておりますが、高野氏の著書を読んでそのホスピタリティに共感を覚えた方も多いのではないでしょうか。
 
お客様が求めていることを常に先読みし、期待以上の感動を提供する。マニュアルに書かれていなくとも、お客様にとって必要と思ったことをベストなタイミングで届ける。
 
それができる背景には、リッツ・カールトンとスタッフの間にある深い信頼関係と、従業員に熱量を伝播する圧倒的なリーダーシップのおかげではないかと考えます。
 
従業員のことを「紳士淑女」と呼び、彼らの満足度を高めることが顧客の満足度につながると考えている。従業員に最高の顧客サービスを提供してもらうならば、まずは自らそれを実践して見せてみる。従業員をエキサイトさせる前に、まずは自らがエキサイトしてみせる。
 
そうしたリーダーシップが、創業から変わることなく全世界へ展開されていることには驚きが隠せません。

筆者のサーバントリーダーシップに近い経験

さてこのコラムを書いている筆者は、劇団四季というプロの舞台の世界で10年間生きてきた経験があります。その劇団四季でのプロ生活の中で、まさにこのサーバントリーダーシップに近い貴重なマネジメント経験がありますのでここでご紹介させて頂きます。
 
その貴重な経験こそが「子役育成」の経験です。
 
劇団四季のミュージカルでは、子役が主人公という重要な立ち位置を担う演目をたくさん上演しております。子役といってもプロのレベルが求められます。お客様は高いお金を払って舞台を観に来るからです。
 
子どもにギャラを払ってプロの出演者として育成する貴重な経験がありました。この子役の育成&マネジメントはとても面白い!ということでキー局などから取材もたくさん入ることがあったのです。
 
現在研修講師をしている私は、この子役育成の経験談を例に様々な経営者の方々に講演や研修をしております。
 
子どもは繊細です。大人のように関わると、本来子どもが持っている可能性と能力に蓋をすることに繋がります。
 
そこで求められたのが支援する関わりです。
 
まっすぐ目を見て子役の発言にしっかりと耳を傾け(傾聴)、子役の感情や背景を理解しようとする関わりを大切にし(共感)、問題が起きた際には対話などを通して信頼関係を構築していく関わりが、プロとして子どもを育成していく過程で求められました。
 
そして私はプレーヤーとしても壮絶なチャレンジを続け、他の演目で主役(人間になりたがった猫のライオネル役)を掴み取った経験があります。ライオネル役を演じた後に子役担当に戻った際、子役たちは明らかに私に対して羨望の眼差しをしておりました。
 
私はこうして子役と信頼関係を築くことに成功し、リスペクトされる対象となり、ライオンキングの主人公として何人もの子役を育成するという貴重な経験を持つことができたのです。
 
筆者は、劇団四季の中でのこの子役育成の経験が深く身体に刻み込んでいるからこそサーバーントリーダーシップの重要性を実感しています。

サーバントリーダーシップまとめ

サーバントリーダーシップについてここまでお話ししてきましたがいかがでしたでしょうか?
 
先ほども申し上げましたが、グリーンリーフ氏の『サーバントリーダーシップ』で語られているのは、リーダーを育てるための具体的な方法論ではありません。どちらかとえいば、リーダーとしてのあり方を示す本です。
 
ですから、部下に対して「どのように」リーダーシップを発揮するのかを考える前に、まずは皆さまにとっての「なぜ」を考えていただきたいのです。
 
職場の中でリーダーを務めている皆さまが、いまの仕事を通して達成したいことは何でしょうか?どのようなことに熱狂するのでしょうか?
 
再三にわたって申し上げているように、サーバントリーダーは単なる奉仕者ではありません。奉仕するだけでは部下にとって都合のいい召使いでしかないのです
 
自らの内側の声に耳を傾け、熱狂するものを見出すことができる。その熱狂を部下に伝え、部下を巻き込んでいく存在。
 
スターバックスコーヒーのシュルツ氏もサウスウエスト航空のケレハー氏も、自らが信じるものに向かって熱狂的に動き、それと同時に巻き込んでいった社員たちを大切にして支援する素晴らしい方々です。
 
サーバントリーダーを単なる「奉仕者」であると考えていた方が多いのではないでしょうか?
 
このあり方を腹落ちさせることは、皆さんが想像していた以上に大変なことかもしれません。もし筆者のコラムで興味をもたれたならば、グリーンリーフ氏の著書『サーバントリーダーシップ』も読んで学んでいただけると幸いです。
 
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